中国の魔法瓶
1986年、北京中央工芸美術学院の院長室で見た穴だらけの鉄製魔法瓶。これが中国の魔法瓶との最初の出会いであった。それは当時工業製品の花形であった自転車のチェーンを打ち抜いたあとの板金の端材で作られていた。上部はやはり板金端材を曲げて溶接し、その上に小さなプラスチックの注ぎ口がはめられていた。栓はコルク製。内部のガラス二重構造真空容器は下部の交差した2本の針金で固定されていた。
写真は左から、上海の友人が送ってくれた竹製と鉄製、北京の路上でおばあさんから譲り受けたアルミ製、そして、デパートで購入したプラスチック製の魔法瓶である。
これら4つの魔法瓶は材質こそ違うが、大きさ、プロポーション、把手の位置や形状、栓がコルクであることなど、なぜか共通である。私は確信した。その時代ごとに当該地域で調達可能な素材・技術・生産方法で製造されたこれらの魔法瓶こそ、自立的な発展につながる適正技術・適正デザインであると。
三橋 俊雄,2017.03,vol.140