木製水準器

妻の母方の祖父は石工であった。すでに亡くなり石屋も廃業している。多くの道具は廃棄され、わずかに鎚や鑽などとともに残っていたのがこの水準器である。木製で樹種は山桜のようであるが硬くて重い。この水準器がメーカー製ならその証があるかと思い、丹念にみたが見当たらない。片側の平面と木端の一面に『近野』という焼印がおされている。水平方向の気泡管と垂直方向の気泡管がついていて本体サイズは高さ63㎜長さ749㎜厚さ32㎜で水平を測る気泡管はもちろん中心だが、垂直方向の気泡管は端から178㎜のところについていて、両脇に指が入り易いように溝が掘られている。

近辺には大谷石やブロックを積み上げた塀や、凝灰岩切石を積み上げて作った石倉が点在する。妻の実家も元は小さな家であったが、増築するときその大半の壁を石積みとして、祖父が施工してくれた。

何気にみていると、普通に建っているように見えるがこの水準器で水平垂直をきちんと測っているからこそである。わずか1度でも傾斜がついていれば、建物や塀は先ではとんでもないことになる。その意味でとても重要な機器なのだ。

里森 滋,2022.10,vol.182

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