ヘルシンキのスキットル

日本からの団体客はオーロラ見物のため北へ向かって乗り継ぎ、ヘルシンキ国際空港には邦人われひとり。未訪問だった工芸団地のフィスカル村や、わが生誕年に建てられたアルヴァ・アアルト邸を参拝すべく、前回から1年を経ずしてかの地を再訪した。

目的を達し、対岸エストニアの古都タリンにも一泊して戻り、デザイン博物館あたりを散策した。近くには一棟丸ごとアンティークショップというエリアがある。その前庭ではフリマだろうか。上品な老婦人が営む小テーブルの、雑多な品に溶け込めずに輝くスキットルに手が伸びる。10ユーロの値札が。「7ユーロでいい?」「いいですよ」

帰国しあらためる。中からは高そうなブランデーの香り、まだチャプチャプしている。これ、もしかして亡くなったダンナさんの遺品?ヘソのイニシャルはお名前かな。「大事な酒だ、粗末にするな」と彼方の声が聞こえそう。なので、飲むことも、洗うこともままならず、そのまま棚に鎮座している。

・スキットル(SKITTLE)はヒップフラスコ(FLASK)ともいわれる。

磯貝 恵三,2022.09,vol.181

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