記憶を呼び起こす小さな置物

記憶を呼び起こす小さな置物

久しい知人より届いた一通のメール。「ICSID(*) ’73 Kyoto会議 のPaper Weight は、45年を経た今も、いまだに私の机の上にあるわ。」当時、ICSIDの副会長をしていたMrs. Mary Mullinからの文面で触れられていた小さな道具。それがこの Paper Weight !  1973年に京都で開催された「世界インダストリアルデザイン会議」の時に、国内外から参加された方々へのお土産だった。宮田亮平氏(現文化庁長官)にデザインしていただき、その重さはたったの90グラムという小さな(**) 置物である。しかし、放たれる光は宇宙を感じさせるほどの拡がりをもつ。Paper Weightは文字通り、紙の上に置く“重石”。昨今、ペーパーレスになってきている現代において、「置く」ひと手間がほっと一息をつかせてくれる。これは鋳金という素朴な手法かつ、シンプルなデザインだが、見事なほどのメッセージ性が刻まれている。また、金属ならではの特性として、時を経るごとに変化をもたらし味わいが出てくるのも魅力。会議に参加した人々の心にある当時の記憶を西暦年数が蘇らせてくれる。東京2020オリンピック・パラリンピックで日本に来られるゲストにも、Small but Powerful(小さくとも力強い)という日本を象徴するような、そして美しい贈り物を差し上げたいものだ。

* ICSID-International Council of Societies of Industrial Design
** 2cm(高)x3cm(幅)x2cm(奥行)

(vol.148 小野寺 純子 2018/08)

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