神を招くミキノクチ

ミキノクチとは、正月や四季折々の行事などに、神様に捧げる御神酒徳利の口に挿す飾りのことである。漢字で「神酒の口」と書く。日本人は、四季のある豊かな自然と共に生き、折に触れ、神仏に願いごとをして感謝しながら生きてきた歴史がある。ミキノクチは神の依代であり、和紙や常緑樹の葉、枝に神が宿ると信じられ、江戸中期頃から多くの絵画にも描かれてきた。

この竹製ミキノクチは、長野県松本にある四柱神社の歳の市で売られている。竹にも穢れや災禍を払う力があると信じられている。マダケの竹薮から、生長三年目、節間の長い竹を選ぶ。節ごとに輪切りし、板状に小割りする。それを細く裂いてヒゴ状にしたものを編んでいく。竹のしなやかさを活かしながら曲げて絡ませ、広げるのが技である。材料準備から編み込むまで、全て手仕事である。

松本といえば、江戸中期から後期には、松本城の東側を通る善光寺街道を善光寺参詣の旅人が行き交い、また、明治期から大正期には、養蚕景気で各地から多くの人々が集まった。街には大店や旅籠が並び、花柳界で賑わっていた。

この優美な形のミキノクチは、新年を迎えるにあたり、縁起物として多くの大店や花柳界に引っ張りだこであった。松本城周辺には幾人ものミキノクチ職人がいたが、現在、一人になった。昨今は神棚のある家も減少して需要も減っているが、美しいデザインに魅了されて、インテリア小物として求める人も多いという。

真島 麗子,2015.12,vol.128

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