レジメンタル・タイと武士道
「何としてもこの企画を通したい」。社長室のドアをノックする寸前、ネクタイの結び目を左手で軽くつかみ、右手で下にきゅっと締める。一気に背筋が伸びる。形を整えいざ出陣。見事通った企画を持ち帰り、仲間と成功を喜び合う。ネクタイの結び目に右手の人差し指を突っ込み、左右に数回引く。ネクタイが緩む。このとき緊張から開放される。「ご苦労様」と声がかかる。ネクタイは、我ら企業戦士のシンボルだ。そのときどきの緊張と弛緩をコントロールし、姿勢を正す道具である。かつての武士の帯刀と同じだ。人を斬るために腰に差していたとは思えない。武士であることの誇りを、腰の長刀が証していた。心許せるひとの前でのみ、腰から抜いた。
いままた、廃刀令ならぬ「クールビズ」である。暑いから外す。そんなことなら初めからネクタイなど生まれていない。自分が何者かを自覚し、「誇りを持って」生きることを教えてくれる道具が、武士の心とともにまた、消えていく。
【写真】レジメンタル(斜め縞)タイ:Regimentalとは軍隊の意。
山田 晃三,2013.08,vol.101