コム・オンボ神殿の壁画

エジプトに民主化の嵐が吹き荒れる4ヶ月前の2010年10月、古代エジプトの彫金技術をじっくり見たくて、カイロ考古学博物館に出かけてみた。その技術の確かさと類い希なる造形感覚には深い感銘を受けた。

足を伸ばして、カイロからナイル河沿いに600㎞下ったコム・オンボ神殿を訪れたときのことである。神殿としては珍しい二重構造の奥まった壁面に、何やら不思議な道具がたくさん線刻されている。

ガイドの説明によると、それは手術用具であるという。メス、鋏、ピンセット、鉗子など、われわれが現在使っているものと何ら変わらない器具が2000年以上も前から使われていたことを示している。一説によると脳外科手術など高度な外科手術がすでに行われていたと言う。

古代エジプトのファラオは、“神の手”を持つ外科医に命を委ねていたのだろうか。左側の座った女性は、分娩椅子にすわる妊婦姿のイシス女神を表している。

高梨 廣孝,2012.09,vol.090

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