マウスの旅
初めてマウスというものに触れたのは1983年、Lisaのマウスだった。写真は、Mac Plusのマウスから今にいたる歴代の自分のマウス。ハードウェアとOSの両方を設計しているアップルの強みは、マウスというデバイスを介して、画面上の世界をいかに人間の認知に溶け込ませるかということへの徹底した追求にもあらわれている。
最たる例は、スクロール方向を逆にするという、macOS操作史上の大転換。iPhoneを登場させた後、タッチ操作が多くのユーザーに浸透したときを見計らって行われたこの仕様変更には驚嘆した。新たなスクロール方向を「ナチュラル」と名付けた根本には、Macintosh誕生以来のヒューマンインターフェースへの思想があり、それに基づいた「直接操作感」という原則に従ってUIデザインを大きくジャンプアップさせるできごとだった。
ただクリックするものであった素朴なマウスから、指先でなでて操作する滑らかな表面をもつマウスへ。プロダクトデザインの洗練以上に、インターフェースデザインの大きな旅がこの40年にある。
川添 歩,2023.3,vol.186