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蒸気玩具

高さ17.5㎝、円筒の直径5㎝。ボイラーのような立ち姿の玩具が我が家に伝わっている。正面の焚き口からアルコール缶を中に入れて火を付けると円筒内の水が徐々に熱せられ、最後には沸騰して上部の逃がし弁から湯気が出る。すかさず裏側の小さなハンドルを指で少し回すとピストンがゆっくりと上下運動を始め、最後には左のハズミ車が驚くほど急回転する。たったこれだけの玩具だが弟と二人で興奮した記憶がいまだに蘇る。

18世紀初頭、炭鉱の排水ポンプから始まる蒸気機関。それが遂にロバート・スチーブンソン設計による蒸気機関車ロケット号に結実してリバプール-マンチェスター間を往復したのが1830年。この玩具はそれから約70年後の1907年、ドイツのビング兄弟社の製品であることが判明した。金属食器メーカーからスタートしたこの会社を世界的にしたのが蒸気で動く玩具。とくに創業以来のロングセラーがこの固定型蒸気機関だった。

蒸気の力が人類に夢を与えてから300年。現在もLIVE STEAM(動態保存されている蒸気機関)として世界中で愛され、SL路線は観光の目玉になっている。電気がエネルギーの中心になっている現在でも蒸気に魅力を感じるのはなぜだろうか。この玩具を見つめながらつらつら考える夜である。

大沢 匠,2021.08,vol.170

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