『心の器』

ある時、大分以前のことを思い出そうと探しだした古手帳から、はらりと落ちた小さな袋。「お年玉」「眞査子さんへ」「母より」と記されていました。

判読できないほど字は乱れ、あまつさえ「眞佐子」の「佐」の字を間違えて「査」と書いてあります。脳梗塞から認知症を患って逝った最後のお正月、利かない手で一生懸命書いた最後の文字だったのです。

母の在りし日が一気に蘇りました。たとえ、ひとひらの紙であっても私にはかけがえのない大切なもの。一体何処に仕舞ったらいいのでしょうか。

大切な人を失うことは、誰しもが深い悲しみ、募る無念を経験すること。

『心の器』は、寂しさを乗り越えるよすがとして、愛する人が生きた証を示す小さなモノを収める器です。手紙、アクセサリー、石ころ、言葉、何を入れてもいい。何処に置いてもいい。いつも寄り添い、悲しい思い出もいつか希望に繋げる魂の友(soul mate)として創案したものです。

祈り、語り、願い、家族や友との心を通わせる器にしたいと念じています。

曽根 眞佐子,2013.12,vol.105

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