キャットダンサー
わが家には10歳の猫がいる。既に老年期を迎えながらも子猫のように遊びをねだる彼女の、10年来のお気に入りがキャットダンサーである。
1m程のピアノ線の両端に小さな筒状の紙がついているだけの玩具だが、小手先の動きにピアノ線特有の反発が加わり、生きもののような動きを見せて狩猟本能をそそる。
作り込み過ぎない単純さがゆえに使いこなしが利き、自在に操作できる余地のあるところが長寿の秘訣。猫の本能をもってしても飽きず、操り手も動きに工夫を重ねることで猫と対話する愉しみが続く。
人と道具が互いに働きあうからこそ、じつに多様で不可測な遊びが成立する。近頃、道具の“分”を越えた道具があまりに多いと、思いが飛ぶ。
さて、今日もそろそろキャットダンサーの時間。踊るのは猫だが、踊らされているのは、きっと私なんである。
原田 憲久,2008.10,vol.042