タオル掛けのモミジ

 我が家には「タオル掛けのモミジ」と称する楓が庭に植わっている。農業を生業とするこの地域では、浴室は「湯殿」として独立した建物がつくられることが多かった。燃料はガスや灯油ではなく薪が使われており、農作業で汚れた体の汗を流すには独立した建物の方が便利であったと思われる。
 「タオル掛けのモミジ」は湯殿の入口に植えられ、家族が使ったタオルを乾かすために都合の良いハンガーとして使われていた。その為に、使い勝手が良いように毎年枝は刈り込まれ、樹勢は抑制されていた。
 時代は変わって、浴室は住宅の中に取り込まれるのが当たり前となり、モミジの役目は終えた。我が家に移植されたモミジはのびのびと枝を伸ばし、初夏には爽やかな新緑を、秋には鮮やかな紅葉で我々の目を楽しませている。
 自然の植物を「道具」として使いこなした知恵が、ニックネームとして今でも残っている。

高梨 廣孝 , 2019.10 , vol.155

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