台湾蘭嶼島・タオ族の靠背石
台東空港から南東に20分、台湾原住民タオ族の住む蘭嶼(Lanyu)島がある。火山島である。台風よけに石垣で囲まれたタロイモの水田や、その囲いから民家の屋根だけが顔をのぞかせているタオ族の集落。写真手前の石段を下りると、低い軒先の下に80 センチくらいの四角い入り口が4 つ並ぶ。室内を覗くと帆のような三角形の「魔除け」の柱が薄暗闇の中に浮かんで見えた。再び石段を上がると、眼下に太平洋の海原が広がる。右手には海に向かって平らな面をもつ大きめの石(写真中央)が2 つ斜めに突き出していた。靠背石(背もたれ石)である。
昔、GoodDesign として、森の中の木をそのまま用いて椅子をデザインする話を聞いた記憶がある。大海を見下ろす石だらけの丘に当然のようにしつらえられたこの石の造形は、まさにブリコラージュ・デザインの傑作と言えよう。ふと隣家に目を遣ると、ちょうどおばあさんが靠背石にもたれながらのんびりと海を眺めていた。私もならって靠背石に座ってみる。前方の夏用に建てられた小さな高床式の涼台では、山羊が気持ちよさそうに昼寝をしていた。
(三橋 俊雄 2018/04)