シンガーミシン
写真は、昭和初期に関西の家庭で用いられていたシンガー社製の足踏みミシンである。本体に刻印されたシリアルナンバーから、1922(大正11)年製であることがわかった。鉄製で重厚感のあるミシンはエジプト風の模様が施されており、使用しないときはミシンを台の中に倒して収納し、作業台にする事もできる。
左右に1つずつある木製の引出しの中には、糸切りバサミやチャコなどの裁縫道具、ミシンの調整に使用するドライバーやオイル、三巻き縫いや縁付け縫い、折合わせ縫いの専用押さえ、ボビン、ミシン針など50点近くのものが納められていた。引出しは中の物を上から全て見渡せ、物を取り出すのも簡単だ。ミシンは衣服製作に必要な道具箱の役割も兼ねているのである。引出しには裁縫と関係の無いものも入っていた。カーテンのフック2箱と房かけ、イヤホン、金属製の蓋等、使い勝手の良い道具箱には様々な物が集まってしまうようだ。
裁縫は主に女性が担ってきていたことから、ミシンに母親の姿を重ねる者も多いだろう。引出しを開けると、裁縫道具に紛れて予期せぬ思い出に出合うかもしれない。
池田 仁美,2024,vol.194