前段として―。儒教では、聖人君子、心ある紳士淑女が身につけるべき徳として「温良恭倹譲」とあるが、今の時代は「徳」が「得」に変わり、「五」が「誤」に変わり、あげくのはてに「誤得」なるも出現し、世の末を思わせる時代になってしまった感がある。

この五徳は銅製、丁寧な作りで、普段の使い方は写真の通り。銅釜の底の形状に合わせて、2通りの使い方があり、煮炊きするにはなくてはならない道具だった。今のIHヒーターには無用の長物になっているが、他にもう一つ、恐ろしい使われ方がある。子の刻丑の刻参り。

我をたのめて来ぬ男、その怒りを呪に変えて頭に載せし五徳の3本足にローソク3本結び付け、右手に呪いの5寸釘、左手に金槌藁人形、姿形は白無垢素足、鬼神も避けるその形相、向かうは神社の御神木、頭に載せし足元照らす五徳のローソクは、怒の炎でゆらゆらと、男の名を呼び、藁人形を5寸釘で打込む御神木、呼ばれた男は身に覚えがあろうがなかろうが七転八倒、生地獄。

講釈師、見てきたような嘘を言いー江戸川柳

早川 高治,2023,vol.190

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