機能の集積が生む造形美
合図灯とは鉄道で使用される携帯用の信号器具で、駅や操車場で地上職員が運転手や車掌に合図をするときに用いる。当初オイルランプだったものが後にカーバイド灯が主流になる。昭和初期には鉛蓄電池式が登場するが、昭和30年代までカーバイド灯は幅をきかせていた。この256型カーバイド灯は明治43年に磯村工業所として創業した磯村産業の製品で、北海道江別駅で使用されていたことまでは分かったがいつ頃の製品でいつ頃まで使われていたかは不明。上の円筒に水を入れ、下の円筒にカーバイド(炭化カルシウム)を入れて反応させて光を発する。見どころは各機能がそのまま別の造形として現れている点で、あえて直径を変えた二つの円筒、安定させるための台座、光源部分とそのフード、持ち手の握りとその支柱に至るまですべての機能がことごとく別々の部品となり、それを接合させて成立している。持ち手が若干斜めになっているのは持った手を体の横にまっすぐおろしたときに光軸が水平になるためと思われる。無駄なところが一つもなく、それでいてバランスがよく美しい。道具として完璧な姿を見せている。
岸本 章,2021.08,vol.171