「ガラスの鼠」の願い

 2020年の干支は「庚子(かのえね)」。十二支の始まりであり、未来への可能性に満ちた年とも云われる。「古事記」によれば、須佐之男命から厳しい火責めの試練を与えられた大国主命を、その予知能力を活かして助けたことから、「鼠」は「幸運の使者」として崇められる事となった。又その後「神仏習合」を経て同一視された「大黒天」の御伴として「万物の成長や豊穣を願う象徴」ともなっている。
 写真は、漆黒の闇に射し込んだ一条の光に輝く「ガラスの鼠」。何やら怪しく不穏な事態にも見えるが、「庚」も「子」も共に新しい局面に入るとの意味があり、中々興味深い。云わば、暗く固い種の中に秘められた生命力が、新たな光の訪れとともに一気に芽吹く。そして万物が成長し増大する時期を彷彿とさせる。そもそも「子」の季節は冬至。一年で最も昼の時間が短いが、これを境として再び長くなり始める。陰陽五行説では陰が極まり陽に転じる「一陽来復」と呼ばれる現象でもある。新しい環境へ対応する体制を整える年。子孫や後進を育て社会に貢献する時期。まさにそうした「光射す庚子(かのえね)」の年であことを願いたい。

写真:ガラスの鼠(GK Shop作品1984年)

藤本 清春 , 2020.01 , vol.158

シェアする