呉市仁方のヤスリ

 工作にはヤスリ掛けが欠かせませんが、切れないヤスリを使うと作業が面倒で疲れます。そこで見つけたのが仁方のヤスリでした。国産のヤスリ(鑢)は江戸時代まで、玉鋼を叩き伸ばし手切りで歯を立てる目立て作業を通じて製作されました。しかし明治後半に目立て用の機械が導入されます。当時の呉港の造船産業は多くのヤスリを必要としており、隣接する仁方地区は産業電力、圧延ロール機の導入によって、大正期にヤスリの近代的大量生産を開始します。戦前には東京、大阪、新潟地域でもヤスリの機械製造は盛んに行われており、仁方のヤスリ製造には大阪地域の影響があったとも聞きます。
 仁方のヤスリには焼き入れに「味噌」を用いるのが特徴で、そのために商標に壺をあしらったメーカーが数多くあります。仁方湾に隣接する通称「ヤスリ工業団地」には50社ほどの製造会社があり、社ごとに様々なは焼き入れ様々のノウハウを持ち、プラモデルやスキーのエッジ研磨用などの特殊なヤスリも豊富です。現在、国内シェアの95%は仁方産のヤスリといわれます。米国やスイスの有名メーカーに匹敵する高品質ヤスリを製造する仁方の小さな工場も知られています。

益岡 了 , 2019.9 , vol.154

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