体は運搬のための道具

ものを運ぶために身体を使うことは基本的な方法であり、文化によって運び方が違う場合がある。

煉瓦焼成の窯場で働く男性と女性では生煉瓦の運び方が違うことに気づく。

男性はインド人で出稼ぎに来た青年たち、女性はネパール人で近くの農村からである。この出稼ぎのインド人は頭の上にものを載せて運ぶ頭上運搬であり、ネパール人は荷重のかかるベルトを前額に当てて支える前額支持背負い運搬である。ネパール人の前額支持背負い運搬はドッコと呼ばれる逆円錐形の編籠とセットで行われ、頭から籠を吊って歩く光景が近年まであった。逆円錐形の籠は木や草の実をはたき落として採集する際に適した形で、採集狩猟時代に遡る形だとされる。古い時代に遡れる籠の形と身体の使い方が続いてきたのは、この写真のように異民族との接触の中で運搬の姿形が民族を主張するメッセージでもあったからであろう。

写真:ネパール、ポカラ郊外で2000年に撮影

坪郷 英彦,2012.10,vol.091

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