空きカンを使った、街角の鍼灸治療

「いや~、気持ち悪い」との声が聞こえてきそうであるが、この絵はがきで紹介しておきたいと、10年来考えていた。道具と人やくらしとの関係性を大切にする道具学会には、ふさわしい物事に感じられていたからである。

写真は、第3回目の中日比較道具文化探検の途上、2000年8月16日の午後、中国・貴州省遵義市の湘山寺にいたる湘江のほとりで撮影したものである。

いわゆる「吸い玉療法(英語ではカッピング)」をしている光景で、中国の歴史ある医療の一つである。ふつうは透明なガラス製の丸底で壷状をした容器を使い、アルコール綿に火をつけて容器の中で燃して陰圧状態にし、皮膚の患部にあてる。するとそこが吸い上がり、うっ血状態となる。血液の循環や代謝を促進し、自律神経の調整や改善などにも効く。最近は美容や痩身法として人気も高い。

この治療法を中国では抜罐(バーグァン)という。カンの中の空気を抜くという意味だが、罐という漢字は英語の金属容器を示すカンの音訳字らしい。するとこの空きカンは、語義通りを地でいっていることになる。

小林 繁樹,2012.08,vol.089

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