ゼンマイ飛行機
年に数回、学生たちと京都府北部の農山漁村に「学外演習」の授業でおじゃまし、自然と共生してきた人びとの生き方や生活の知恵を学んでいる。
ある年の夏、由良川に注ぐ小さな川沿いを巡っていたとき、山道で出会った地元の方がその場であっという間につくって私たちに見せてくれたのが、写真の「ゼンマイ飛行機」であった。
ゼンマイは、春、新芽を煮物や油炒めなどにして食す日本人の代表的な山菜のひとつであるが、生長すると一枚の大きな葉に見える部分は軸の両側に細い羽軸が出て、その羽軸の左右に細かい葉(小羽片)が付くシダ類特有の形状となる。
ゼンマイ飛行機は、その羽軸を左右長短2本ずつ残し、羽軸の片側だけ小羽片を取り除くと、残りが飛行機の主翼と尾翼になる。また、このゼンマイ飛行機は思いのほかよく飛ぶ。
かつての子どもたちは、野や山で石や木や葉などの自然物がもつ造形を人間の道具に見立てて遊んでいた。この飛行機も、ゼンマイの葉の構造や造形から実にうまく飛行機を連想し、つくりだしたものにちがいない。
三橋俊雄,2011.11,vol.080