時を超える最高の造形美

爵は礼器である。二里頭遺跡は日本では殆ど知られていないが、黄河の中流域・洛陽の近くにある。私はたまたま車で2時間ほど離れた学校の集中講義の合間に3回訪れ、博物館でこの爵と出合い虜になってしまった。この写真のものは勿論複製だが、それでも充分美しい。この爵が作られた夏王朝(前21~16世紀)は中国でも諸説があり定まっていないが、この青銅製の爵は高さ225mm、横315mmで厚さは極めて薄く、4000年前の驚異的な鋳造技術の成果である。

モチーフは雀とのことだが、抽象化とバランスが素晴しく、凛とした緊張感のある美を生み出している。2003年に行った時、中国社会科学院考古研究所二里頭工作隊長の許宏博士と話すことができた。私は「かたちを考える立場の者から見て、この爵は他に比べて明らかに個人の感性、存在を感じる」と述べた。博士は当時の集団創造の様子を丁寧に話された。道具の美を巡る想像とロマン溢れる時間だった。

佐野 邦雄,2007.06,vol.027

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