「くじり」と呼ばれている豆蒔具

大阪府の北端、京都府と兵庫県の間の細く入り込んだ能勢地域では、峠を一つ越えた丹波篠山とともに、黒豆や白豆をはじめ、美味な豆類が収穫でき、今でも畦豆(あぜまめ)が植えられている。

「くじり」の使い方は、くの字状の片方の端を握り、もう一方の尖端で畦に小さな穴を開ける。穴の中に種豆を落とし、くの字の曲がった背のところで押さえ込むと、豆はしっかり土の中に埋まる。数個ずつ、リズミカルに等間隔で豆は蒔かれていく。

「くじり」の動きは、手と一体になってきびきびとなめらかだ。今風のスコップを使う手が大仰で、無駄の多いものに見えてくる。

ころあいの枝振りの曲がった部分を巧みに使い、くの字の両端を削って尖らせた「くじり」は、使い込まれてなだらかな曲線を描いている。所有者Yさんの1900年生まれの母親の母親、つまり曾祖母がすでに使い込み、少なくとも150年間は使われてきたものだという。Y家には「くじり」が2個ある。

豆蒔具に重なる「くじり」という言葉が、日葡辞書(1603年刊)に「指または木片などで穴をあける、または貫き通す」とあるから、古い名称だろう。

横川 公子,2006.12,vol.021

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