比例ものさし
具体的で物質の道具を紹介するならば、私がとくに名付けた「比例ものさし」から始めたい。
これはチベット仏教の仏画を描く際に、その下絵の構図を決めるものさしで、調査したネパール現地では「ツェ・シン(計る・木)」と呼ぶ。それを私が20年ほど前に「比例ものさし」と命名したのは、このものさしが仏画に必要な、顔の大きさを12という基本単位として、1:2:4:6:8:12といった比率を基準にする、描く仏画のサイズにだけ対応する比例目盛りを刻んでいるからである。このものさしを使うことで、望みのサイズの相似形が描けるのである。
計測とは、ことに対象を認識することである。「比例ものさし」は簡素で使い捨てのものさしではあるけれど、その使い方を知ることで使い手の考え方を知り、私たちとの違いを知ることになる。
その存在が身近となって、多元的な思考が可能となるよう普及に努めたい道具の一つである。
小林 繁樹,2005.07,vol.004