アンテックス(ANTEX)社の半田鏝(コテ)
父がラジオを自作していた頃は火鉢で鉄製の鏝を加熱し、それが熱いうちに半田を溶かして電線や部品を取り付けたと聞いています。しかし私の幼少の頃には電気式の半田鏝が普及し、それを使ってアンプやスピーカーといった電気機器を自作していました。大学入学後に軽音楽部に入部したこともあり、いっそう電気工作の機会が増えました。そこで先輩の助言もあり購入したのが、英国アンテックス社(常盤商工輸入)の半田鏝です。30年前はまだ珍しかったセラミックヒーター式の電気鏝です。黄色い樹脂製の細身のデザインは、今でも十分新鮮です。発熱に比して軽量なボディは重心設計が良好で、まるで鉛筆のように扱え精密な半田工作作業に最適です。半田付け作業の出来は鏝先の形状や材質に依るところが大きいのですが、これは鏝先の種類が豊富で交換も容易でした。半田付けの相手によって鏝先を簡単に取り替えられることは実際の作業時の大きな利点です。熟考と試行錯誤を重ねたデザインだと素直に感心した記憶がありいます。鉛含有半田の使用回避もあり、温度調整式の半田鏝が市場の多数となりましたが、私にとっては日常欠かせない道具の一つです。
益岡 了,2020.11,vol.164