目-見(まみ)える道具
灰色の都会を脱出、新緑の農村地帯をゆく。
屋根より高い鯉のぼり─が空中に異常繁殖している。西の播州鯉織に対するは東の埼玉・加須が空中鯉養殖の名所で年産70万尾。
その一軒を訪ねると広い板の間で鯉の鱗の素描きに色を入れていた。目の下近くの大きな鱗が尾にいくほど小さくなっていく。それをフリーハンドで―てえへんだァと感心していると、職人が「空にあがったら目がカンジンよ」。
青い空を、目が泳いでいるのだ。碧い海では船の舳先(へさき)に目を付けて海の邪鬼を睨みつけている。農村では天の邪鬼を睨みかえして田畑の安泰を守る。アジア文化の原境ラオス探検では竹の籠目(かごめ)が魔を払う呪標(ターレオ)を見た。籠目を棹竹の先に付けて、一軒の家のまわりに7本も立てていた。20世紀はカメラやムービー、見る道具の世紀だったが、目・眼そのものの力を見失ってはいなかったか。季刊道具学でも特集テーマとして「みる」を追っている。
山口 昌伴,2005.04,vol.001