墨を摩れない硯

先日、小中学校の教員を目指している教育学部の学生に、墨を使ったカリグラフィー表現の実習をしました。教育科目の講義の一環です。「イメージが掴めないまま、すぐに描かせてはいけない」「構想の段階にこそ時間をかけましょう」― 構想を練る時間の体験も兼ねて、大学生に墨を摩ってもらうことにしました。

おやおや、硯のツボの中で墨をかき混ぜているだけの学生が多くいます。聞くと「小学校の時から既製品の墨汁を使ってきたので、硯の使い方を習っていない」そうです。正しい使い方を解説したまではよかったのですが…。

持参した今時の学校教材用の硯は、墨汁を注ぐのを前提に作られており、何と墨を摩るスペースがないことに驚きました。本来はフラットな硯面に、筆を置く台座と筆先を整えるヘラまで付いているではありませんか。墨汁の器と割りきるなら「学校教材用の硯」は、むしろ旧来の硯より理に適った形ではあるのでしょうが…。皆さん「硯のガラパゴス化」ご存知でしたか?

富山 祥瑞,2011.09,vol.078

シェアする