靴磨き器

小さい頃の私は「よく足元を見て歩きなさい」と注意された。よそ見しながら歩いていて、何かを蹴とばしたり、つまずいたりしたからである。「犬も歩けば棒にあたる」というのか、この道具もそんな具合にからみついてきた。

場所はフィンランドのナーンタリ。この町の名前は、ムーミンファンにはよく知られているはずだ。しかし、このような道具の存在を知っている人はあまりいないだろう。初めて見たときには、浴室用のブラシを3個組み合わせた手作りの考案品かと思ったが、それにしては構造がしっかりしている。数日後に訪れたヘルシンキでも、同じ構造の品をあちこちで見かけて、思いつきの手作りではないことがはっきりした。玄関マットに固定したものより、タラップの左端に埋め込んだものが多かった。刷毛の毛は長くて柔らかい。

同僚に、フィンランドに詳しい言語学者がいるので教えてもらった。「ケンキャ(靴)ハルヤ(刷毛)」とか「ラップ(階段)ハルヤ」といって、ブーツについた雪をこすりとる。北欧ではありふれた道具だそうだ。

近藤 雅樹,2006.09,vol.018

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