一杖に託すもの

青春朱夏、道具世界を糺す職能樹立の闘いに生命を張り、吾身を省みず不養生を重ね、白秋耆老(きろう)に至りて双脚に故障出来(しゅったい)し、暫く杖に頼りぬ

─青春朱夏白秋玄冬は四季をいう。耆は六十、老は七十、耆老は六~七十歳の老境。

杖は采配指揮に働き、長老の格を示し、お洒落の装身具であり、歩行自助の頼みともなる。杖を選ぶに、耆老の役目柄外出に黒衣正装すること多く、黒に似合うお洒落の一杖に緑を択(えら)んだ。

子曰く、四十にして惑わず、七十にして家に杖つき、八十にして国に杖つく。緑は浄土(グリーンランド)のシンボルカラー。国土を道具によりて極楽浄土に、との祈念の行脚への旅立ちを、緑の一杖に頼む。

─さて旅の道具としてこの一杖を見るに、座頭の仕込杖、孫悟空の如意棒を想起。先端技術を駆使するなら、これだけの体積空間あれば相当の如意を仕込めよう。あるいは閻魔の鏡か地獄耳か、はたまた肉眼ならぬ天眼力か、諸賢にアイデアを募りたい。

榮久 庵憲司,2005.11,vol.008

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