独身大工の台所

スイスはダボスの近くに住む大工の独創的な木造ユニット住宅を訪ねたことがある。

文字通り隣の山の木を使って、考案された住居だ。1階は、オフィス的な空間(考案したユニットを売るために事務所にしているのだ)だが、2階は実に気ままな独身男性のくつろぎのワンダーランド。「このソファで彼女と音楽を聴くのが楽しみ」とニヤリとして、真っ赤なラブソファを「どうだ」と見せる。

その彼のご自慢の設備が、この台所。コンパクトながら、機能は充実。しかも、と「この扉を見てくれ」と自ら木製シャッターを上げ下げして見せてくれる。

オーブン、食器洗い機はもちろん、写真では見えないが、キッチンに向かって壁面には収納棚がばっちり。 「こうしていると不意の客にも慌てなくて済むんだよ」と言うのであった。これって、もしかすると彼女に悲惨な独身ライフを見せないために生まれたアイディアかも、などと思いつつ、木と道具は使いようと感じつつ山間の家を後にした。

野辺 公一,2005.05,vol.002

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