道具学への招待 vol.144 金婚式

i144.jpg 来年、結婚50周年を迎える。結婚した当初、少しはましな食生活をと願って大枚をはたいて手作りの菜切り包丁を購入した。期待に違わず切れ味は抜群、定期的に研ぎを重ねた結果、刺し身包丁のように細くなってしまった。昨年、水牛の角でできた口金が割れてしまったので、柄は有り合わせの楢材で付け替えた。見かけは相当くたびれてしまった包丁も切れ味は昔と変わらず、今でも我が家の大切な調理器具として活躍している。
 入社当時、先輩の家を訪ねた折に紙のように薄くなった包丁を見た時、夫婦共に歩んだ結婚生活の年輪のようなものを感じたことを今でも覚えている。
 刃物は研ぎ上げた瞬間は、どんな刃物でも鋭い切れ味を持っている。然るに刃物の良否を分けるところは何処にあるのか。それは研ぎ上げた当初の切れ味がいかに長く持続できるかにかかっているのではないかと思う。鋼の材質の選び方、鍛え方、適温の焼き入れなど職人の知恵と経験がこの1点に集約されている。そして、すべての道具に言えることであるが、その性能を引き出すには日頃のメンテナンスが欠かせないのである。

(高梨 廣孝 2017/07)

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