気仙沼の「大漁半纏」

久しぶりに訪れた新生復興中の被災地で、素晴らしい「大漁半纏」と出会った。海岸沿いの地域、岩手県大槌町、陸前高田市などでの現地踏査の終盤に立ち寄った気仙沼での出来事であった。家は津波で流されてしまったものの奇跡的に「蔵」だけが残ったという方にお会いした時のことである。想像を絶する想いの中にも、「蔵」に仕舞われ救われた数々の道具たちと再会し、自らの家の歴史や伝統を改めて想い起こし、再生復興への励みになったという話を伺い、胸が熱くなる思いであった。まさに「蔵」に仕舞われた「時の遺産」が、地域の人々を励ましたのである。

やっと浸水を逃れたという蔵の二階へ案内されると、そこには見事な「大漁半纏」が勇壮に掛けられていた。かつて定置網が盛んで、様々な種類の魚の大漁の年が続いていたそうである。時はいつも冬に向かう季節。それを祝い、すべての漁師達の苦労を労い、温かい冬場を迎えてくれるようにと、船主が贈ったものだという。それら見事な「祝いの装い」を目の前にして、地元に根付く道具文化の深さに改めて感動した。

藤本 清春,2015.04,vol.121

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